「大学休学は自分なりの決意表明です。自分を後戻りできなくしたくて。」
凛々しい姿が印象的な彼は、 久野 啓伍(くの けいご)さん。
慶応義塾大学法学部政治学科の3年生だ。
現在大学を休学し、自らが経営する「Percify株式会社」の事業に全力投球している最中である。
Percify株式会社は、2022年9月に高校時代の親友、土田恭平さんと共同経営で始めた会社。
早慶生向けに、長期インターンの人材マッチングやキャリア支援をおこなっている。
他にも、経営者と学生を繋ぐ交流の場「BUCHIAGE」を定期開催するなど、活動は多岐にわたる。
現在は経営者として「人材マッチング」をしている久野さんだが、過去には長期インターンを経験し、そこで「人材マッチング」を学んだ。
今回は、長期インターンに詳しい彼からしか聞けないような、説得力ある話を聞いてみたいと思う。
また、経営者として挑戦し続ける久野さんの「今」に繋がる過程を追っていく。
「野球」を通しての喜び・挫折・そして克服
夢中になった野球
埼玉県川越市で生まれ育った久野さん。
小学校2年生で始めた野球が、久野さんの人格形成につながったという。
「野球って、厳しい指導や、相手に対しての礼儀・スポーツマンシップがありますよね。
だからか、大人とも普通に話せるような子どもでした。」
小学生時代は、どんなに練習が辛くても辞めたいと思った事がなかった。
「本当に楽しい日々でした。同級生と指導者に恵まれたなと。」
小学校6年生には選抜入りし、「西武ライオンズジュニア」メンバーに。
中学生になると、全国大会優勝という華々しい成績を飾った。
しかし、そこで人生一番の挫折を経験する。
生きることに必死だった限界の日々
「中学1年生になり、チーム内でいじめがはじまったんです。毎日が辛くて、野球も辞めたくなっていました。」
そして家に帰ると、父親による野球の特訓が毎晩深夜3時まで続く。
厳しい野球の指導に耐えるのも本当に辛かったと久野さんは話す。
「野球チームではいじめられ、家に帰ると辛い特訓。同時期に父親も倒れてしまい、どんどん精神的に良くない方向にいっちゃったんですよね。」
毎日、朝起きるのが、生きるのが辛い。
絶望の中学生生活だった。
「そんななかで、唯一の自分のよりどころが、塾と中学校だったんです。
勉強している間は、野球をしなくていい。勉強はいくらしても、咎める人はいない。」
勉強と中学校の仲間に心のよりどころを見つけはじめた久野さん。
ところが、この話は「いじめられた」で終わらなかった。
「いじめも、結局3年生になるころには自分で解決して、全体が丸く収まっていったんですよね。最終的に『自分のクラブチーム』みたいな感じにしました。」
いじめから抜け出せただけでなく、皆と仲良くなり、最終的にどうやって「自分のチーム」にしたというのか。
リアルな「RPG」
身近に起こりうる「いじめ問題」。
試行錯誤しながらも、自力でいじめを克服する術を身に着けた久野さんは強い。
「いじめって『ポジション取り』なのかなと思って。そのポジションも循環してるんです。だから、自分が標的じゃなくなったタイミングで、うまく1on1で向き合ってみた。一人ずつ仲良くなって、味方を増やしていくというような感じで。なんだかRPGをやってるような感覚になってきたんですよね。」
圧力で統治するのではなく、一人ひとりと仲良くなり、楽しく過ごすようにする。するといつのまにか自分の周りに人が集まる。
「この時克服できた経験が、僕の人生で一番大きな『人間力』になっていると思うんです。」
じっくり向き合い、自分という人間を愛してもらうということ。
それは、多くの経営者から愛される久野さんの今の姿の原点なのかもしれない。
高校受験では、勉強が功を奏して、第一志望の慶応義塾志木高等学校に合格。
その後慶応義塾大学へ進学した。
「闘争心」からの長期インターンへの挑戦
「きっかけは、かなり優秀だった友人。このままじゃこいつには適わない、だったら俺も長期インターンやるしかない!と思って探したのがはじまりでした。」
幼いころから闘争心が強く、1番へのこだわりがあった久野さん。
優秀な友人の存在が、自分を駆り立てたのだという。
その後サークルの友人の紹介で、長期インターンを始めた。
久野さんが長期インターンをした「株式会社ユアリッチ」と「株式会社Connectete(コネクテテ)」。
2社共に、ITコンサル、SES事業1を営む会社だ。
創業者同士の繋がりも深く、久野さんは2社と連携しながら働くかたちとなった。
「株式会社ユアリッチ」での業務内容は、主に人材マッチング。
会社へのエンジニア紹介、エンジニアへの案件紹介業務などをおこなっていた。
「株式会社Connectete(コネクテテ)」では、エンジニアの新卒・中途採用を担当。
媒体別、時間帯別のスカウトメールの効果の違いなど、優秀な先輩から手ほどきを受けた。
ところが、当初9名だった長期インターン生は、一か月で久野さん以外の全員が辞めてしまったという。
「完全成果報酬だったので、数か月は利益が出せなかった。皆わかっていたけど、耐えきれず辞めてしまったようです。バイトした方が早いと……」
一気に自分以外の全員がいなくなるという状況。
不安で一緒に辞めてしまってもおかしくないが、なぜ久野さんは、残ろうと思ったのだろう。
「あまり他人は気にならなかったですね。意外と臆病なのか、一度始めたことをすぐ辞めるということはできなかった。結局、2年半働きました。」
粘り強く長期インターンを続け、人材マッチングの術を身に着けた久野さん。
これは、今の「長期インターンの人材マッチング」事業にも、大いに役立っているという。
- SES事業……「System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)」。IT分野でエンジニアの技術力(システム開発/保守/運用など)を提供する契約の一種。 ↩︎
人材マッチングは「営業員」が全て
「マッチングは、営業員の良し悪しで全てが決まると思うんです。だから、とにかく数をこなしてコツを掴んでいくしかない。」
長期インターン時を含め、たくさんのマッチング業務をこなしてきた久野さん。
その中で、多くの失敗も経験したという。
「長期インターンでは、『このエンジニア、使えないからクビね』と言われてしまったことも。両者の意見を汲み取りきれていないと、最終的に誰もハッピーにならないと実感しました。」
難しい人材マッチングという仕事だが、楽しさややりがいは何なのだろう。
「実はやりがいが生まれるのはずっと先の話なんです。
というのも、インターンをする学生も、やってよかったと思えるのはだいぶ経ってから。
正しいマッチングだったのか、正解がわかるのが大体半年後なんですよね。
本当に悩みながらマッチングして、時間が経ってから感謝される。ここでほっとして、やっとやりがいを感じられます。」
社会人と学生の「壁」を壊せた瞬間
長期インターンを経て、久野さんの「社会人」に対する印象が変わった瞬間があったという。
「定期的にクライアントさんとフットサルなどの交流会をする機会があって、一緒に参加したんです。スポーツを通じてフランクに関われたこともあり、社会人と普通に話せたことに感動しちゃって。対等にしゃべれないと思っていたから、僕の中で壁が壊された瞬間だったんですよね。学生と社会人の垣根を超えられた、大事なできごとでした。」
見えてきた自分の「軸」
久野さんが「人生の中で一番大事にしているのは人間関係」と明言する背景には、幼少期からそばで見ていた母の影響も大きかったという。
「母は人間関係を築くのが上手で、誰とでもうまくやるんです。僕も、どんな世代の人たちとも良い人間関係を築きたい。そして愛される存在でいたいという気持ちが大きいんです。」
中学時代のいじめを、人間関係の再構築により克服し、誰からも愛される母の姿を見て育った久野さん。
現在の事業においても「啓伍のところで働きたい!」と言ってくれる声や、久野さんを信頼して人を紹介してくれる社長さんなど、丁寧な人間関係が、人脈を広げていくことを実感しているという。
「長期インターン」スペシャリストからのメッセージ
長期インターンに挑戦してみると、見える世界が変わってくる。
久野さんが今回話してくれた「長期インターン」の4つの大きなメリットを紹介する。
・「お金」を稼げる
「意外と知らない人がいますが、長期インターンは、バイト以上のお給料がもらえるところがたくさんあります。固定給はもちろん、営業なら頑張った分だけインセンティブ(報奨金)がもらえる会社も。」
お金の為にアルバイトをしている人は、長期インターンも選択肢にいれてみてはどうだろう。
・「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」作りになる
『〇か月で△円の営業成績を出しました』『マーケティングで試行錯誤しました』といったガクチカが話せれば、新卒一年目から即戦力が見込めるという点で、会社からも必要とされやすい。
・最強の「自己分析になる」
ベンチャー、スタートアップなどで長期インターンをすると、経理/営業/マーケティングなど、たくさんの業務に関わるチャンスがある場合も。
すると社会人になる前に、自分がわくわくしたり、苦手と感じる業務を見極めたりすることができる。
また、複数のクライアントと関わることができるので、「この業界はおもしろそう」「逆に自分には大手の方が合っているかも」と実感できるのも、長期インターンのいいところだ。
・一生ものの「人脈作り」
長期インターン先の会社の方との人脈作りはもちろんのこと、その会社のクライアントの方たちとも繋がっていく。
実際久野さんも、長期インターン時代のクライアントが、今の彼の事業に関わってくれているという。
「お金」「ガクチカ」「自己分析」「人脈」。
これらいずれかのワードに魅力を感じている人がいたら、長期インターンはおすすめだ。
「身近に長期インターンをしている先輩や友人がいれば、一度話を聞いてみるのが一番いいと思います。僕に連絡してきてくれても構いません。」
最後に、学生へのメッセージをいただいた。
「紹介する身として言ってはいけないのかもしれないですが……」
と前置きをした上で久野さんはこう続ける。
「なんでもいいから一社やってみようということ。失うものがない今が、学生の特権だと思うんです。
『適当な学生を送るな』という会社目線もあるかもしれませんが、ある意味、ふわっとした学生にとっては、会社にメリットがなかっただけかなと思うので。」
学生にとっては、なんとも頼もしい言葉だ。
業界が絞れなくてもだいじょうぶ。安心して飛び込んでみよう。
失敗したって良い。むしろ今失敗を経験できて、「ラッキー」なのだ。