地域

松浦 愛×地域おこしインターン【長期インターン経験談】

コロナウイルスによって、私たちの学生生活は激変した。

授業がリモートに、アルバイト先が休業に、サークル活動は禁止に。
全国の学生が、さまざまな規制のもとで苦しい日々を過ごしてきた。

今回お話を聞いた、松浦愛(まつうら あい)さんもその一人。
彼女は中国留学の途中、コロナウイルスを理由に強制帰国となった。

考えた末に彼女が飛び込んだのは、空き家を宿泊施設にリノベーションする、いわゆる町おこし系の長期インターン。しかも、廃村した集落で、住み込みの共同生活をしながら。

今回のインタビューでは、インターンのきっかけや選び方、そしてインターンでの学びについて、お話を伺った。

憧れの中国へ飛び立った矢先にコロナウイルスが蔓延。
やり場のない思いを抱え、悶々とする日々を過ごす。

生まれは兵庫県加東市。母親が中国人であったことから、幼少期の一時期を中国で過ごす。
大学進学で地元を離れ、静岡県浜松市へ。

「自分のことを誰も知らない。そんな場所にいきたいなと漠然と考えていました。」

大学では中国経済を学び、留学生と交流し、中国語の検定も取得。
意思決定や行動の背景には、常にと言っていいほど「中国」があった。

そんな彼女が、なぜ廃村集落で住み込みインターンをするに至ったのだろうか。

インターンシップのきっかけ


「一番の理由はコロナウイルスの影響で、中国留学を中断せざるを得なくなってしまったことでした。大学3年の後期から1年間、中国留学のために休学をしていたのですが、飛び立った半年後にコロナウイルスが蔓延。結果、強制帰国することになってしまって。」

帰国後も、コロナウイルスは拡大する一方。
見通しが立たないまま過ぎゆく時間に、焦りと歯痒さを感じていたという。

「実は留学期間の後半は、中国でインターンシップを予定してたんです。でも、コロナウイルスが理由でその計画は白紙になってしまい、留学再開の目処も立たなくて。いっそのこと、予定より早く大学に復学しようか、と本気で考えていました。」

【中途半端】という現実が、私を突き動かした。
勢いで飛び込んだ先は、地域住み込み型のインターンシップ。

インターンシップを選んだ決め手


休学を早く切り上げて大学へ復学する。その選択肢もあった中で、彼女は休学したまま、日本国内でインターンシップをすることを選んだ。

「その時に頭に思い浮かんだのは、『中途半端』という言葉なんです。中国でやりたかったこと、やりきれてないまま。今の私めちゃくちゃ中途半端だなって。だったらこのまま休学して何かやってみよう。むしろ、新しいことを始めるチャンスかも!と考えたんです。そこから、日本国内のインターンを探し始めました。」

勢いで決めたインターン先


自動車学校に通いながら、インターン先を探す日々。なかなかこれといったものに出会えず、「インターンシップ」だけでなく、「ボランティア」といったワードでも検索をかけていたそう。

「そうしたらたまたまactivoというサイトを発見して。その中で、兵庫県佐用町での、まちづくり系のインターンが目についたんです。インターン概要に書かれた『コミュニティ』や『地域』というキーワードをみて、面白そう!と思って。話だけでも聞いてみようと連絡をしたら、とんとん拍子に話が進んで、自動車学校卒業して3日後くらいに現地入りしてました。(笑)」

驚くほどの決断力とスピード。そこに迷いはなかったのでしょうか。

「正直、その時はインターンの内容もよく理解してなかったんです。留学中止が決まった後だったので、とにかく何かしたくてうずうずしてたのかと。不安や迷いよりも、期待感が上回っていました。」

インターン参加前は、地域の人との暖かいコミュニケーションや、オフィスにこもらず地域に出ながら仕事をする、そんな楽しそうな光景を思い浮かべていたそう。

しかし、そのイメージは大きく崩れることとなった。

飛び込んだ先は、『思ってたんと違う』の連続。
帰りたくて仕方がない日々の始まり。

「まず、思い描いていた共同生活とのギャップが大きくて。年齢・性別・職業バラバラの約30人もの人と一緒に生活をするなんて初めてで、開始早々に気疲れしてしまったんです。一人になる時間も場所もうまく取れず、とにかくしんどかった。作業も、初めは言われたことをただこなすばかりで。早く帰りたいと思っていたし、周りにもそうこぼしていました。」

初めての土地。初めての共同生活。初めてのインターンシップ。
初めてだらけで馴染めず、心身共に疲弊していたことが伺える。

途中で帰ることも検討していた中で、何が彼女をそこに踏みとどまらせたのだろうか。

「ここで帰ったらまた中途半端なまま終わってしまうと気づいたんです。それに、1人で帰るのもなんだか悔しくて。(笑)それから、帰りたいとぼやく私をみかねて、大工さんが道プロジェクトというものを提案してくれたんです。」

新プロジェクトとの出会い

道プロジェクト、略して「道プロ」。これは、宿泊施設の敷地内にある私道を整備し、作業車両が通れるほどの道にするというもの。これを、参加している学生インターンだけでチームを組み、やってみないか?(つまり、大人は一切入らない)と言われたのだ。しかも、愛さんがリーダーで。

「もう少し頑張ってみるか、と思い渋々引き受けました。(笑)
でもこれが始めてみたら大変で。もちろん、チームメンバーのうち誰一人として道なんて作った経験なんてないので、手探り状態でのスタートでした。作り方もそうですが、作業の割り振りや、工程管理といったことも初挑戦で、うまくいかないことだらけ。
特に、メンバー間のゴールのすり合わせに悩まされました。同じ完成イメージを持てていないことが原因で、衝突し、作業が全く進まないことも。」

リーダーという言葉に縛られて苦しかった。解決のヒントは、「責任を渡す」こと。

ようやく共同生活に慣れてきた矢先に新たに立ちはだかった壁。
この困難を彼女はどう乗り越えたのでしょうか。

諦めたんです。全部うまくやろうとすることも、一人でやろうとすることも。リーダーだから、あれもこれもちゃんとしたい!って思っていたけど、結局やってみないと分からないし、思い切ってチームメンバーに任せてみようって。

例えば、作業後のミーティングの司会進行を他の人に任せてみる。そうすると、任された人にも責任感が移って、いつもより活発なミーティングになった。他にも、邪魔な木を取り除く時、根気のいる作業が得意な子に任せてみる。すると、面倒なはずの反復作業を楽しそうに進めてくれて、想定より早く作業が終わった。

そういった変化をみて、自分がやらなきゃ!と思ってた仕事や責任って、もっと分散させて良いんだと実感し、気持ちが軽くなりました。」

諦めて手放したら、うまく回っていくようになった。
これも、任されなかったら気づけなかったこと。

「そのためには、きちんとコミュニケーションをとることも意識しました。チームメンバーの個性や得意を知ることで、適材適所を判断でき、任せやすくなるからです。ゴールの共通認識を持つことにおいても同じ。ただ共有するのではなく、同じ感覚をもてるくらいまでしっかりと話す。そうすることで、衝突が減り、作業が進むようになりました。」

頼り、頼られ、前に進んで行く。


道プロでぶつかった多くの壁。困難の最中にいた当時、周りの大人とはどのように関わっていたのでしょうか。

「道プロ開始当初から『何でもかんでも僕らに聞きにこないこと』と大人たちから言われてました。おそらく、自分たちで考え、行動することで、やりがいや責任を感じてもらいたかったのだと思います。
でもその中で、コミュニケーションのとり方や些細な悩みなんかは相談してましたね。道プロが始まったばかりの頃は、私がしんどそうなのを見かねて向こうから声をかけてくれたりもして。任せながらも、ちゃんと陰で見てくれているんだなぁと感じていました。」

そうして通常の施設づくりと並行させながら、2ヶ月半かけて終えた道プロ。
しかし意外にも、完成した当初は素直に喜べなかったんだとか。

「終わった達成感よりも、『ここ、もう少しよくしたいな』と欲が出てきたんです。きっとこれは、言われたことだけをやるんじゃなくて、任せてもらったからこその感情だと思います。責任感やこだわりが生まれたことの表れなんじゃないかと。」

やりきったからこそ、苦しかった日々が後から私を『楽』にしてくれた。

勢いで飛び込んだインターン先で、悩みながらも挑み、駆け抜けた3ヶ月。
彼女にとって、一番の学びはなんだったのでしょうか。

「学んだことがたくさんありすぎて。(笑)
まず、施工技術全般の知識が付きました。工具も使えるようになりましたし、そういった具体的なスキルは自信に繋がりましたね。」

「それから、やりきることの重要性を知れたことも大きな学びでした。今までの私は、やってみても『あ、自分には合わないわ』と感じたらすぐにやめて逃げてて。でもこのインターンを通して、とりあえず正面から向き合って、やりきることで成長し、新たな視点をもてることを実感しました。 」

お金では買えない、新しい「私」を知る経験


「それから、自分を客観的に見られるようにもなりましたね。これは振り返って思うことなのですが、当時は自分の感情でいっぱいいっぱいだったことも、冷静に俯瞰して分析できるようになったんです。あの時の感情や行動は、ここからきていたのか、みたいに。

そうすると、自己理解も深まり、自分でコントロールできる範囲も少しづつ広がって。感情に飲まれなくなったり、自分で自分の予測ができたり。その結果、すごく楽になったんですよね。」

とりあえず、向き合い、やり切ってみる。
その時しんどいことも、過ぎて振り返った時には、自分を知る貴重な経験に変わっていく。

経験は、次の選択に繋がっていく。

「インターンをしてみて、やっぱり私は地域に根ざした活動が好きだと再確認しました。卒業後は、浜松のITベンチャー企業に就職予定です。地域に根ざした企業でありながら、ITという自分にとって新しい領域に挑戦できることが決め手となりました。」

晴れやかな顔で進路について話してくれた愛さん。
最後に、インターンを検討している学生へメッセージを貰いました。

「私は、インターンは就活のエントリーシートを埋めるだけのものじゃないなと思っています。インターンの経験はもっと人生を長期的にみたときにこそ、いきてくるんじゃないかな、と。

趣味や特技と違って、インターンは好きなことだけやればいいわけではありません。新しいこと、苦手なことに挑戦し、時には失敗することもあると思います。その瞬間はネガティブになっても、そこから得られることがたくさんあります。だからこそ、インターンは面白いと思うんです。

迷っているなら、やってみるといいと思いますね。大学から一歩外へ出て、新しいコミュニティから刺激を受けることで、きっと自分の新しい可能性に気づくことができます。」


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