コラム記事

チネケ千慶×株式会社AAIC Japan Nigeria【長期インターン体験談】

「ナイジェリア人の父でさえ、渡航には最後まで反対し続けました。今のナイジェリアは危険すぎると。それでも、どうしても『今』来たかった。このタイミングを逃したら、もう行くことはないだろうと思っていました。」

画面の向こうで心弾ませて話してくれたのは、チネケ 千慶(ちせ)さん。
早稲田大学商学部に通う3年生(現在1年間の休学中)だ。

彼女は現在、ナイジェリアに滞在しながら長期インターンをおこなっている。

今年の1月から渡航し、3か月目になる。

勤務先は、 株式会社AAIC Japan Nigeria 。新興国(アジア、アフリカなど)に進出する日本企業のコンサルティング、投資を支援する会社である。

1日に10回は停電するナイジェリア。画面越しでも、家のライトが点いたり消えたりするのがうかがえる。気温は30度を超え、停電のたびにエアコンも止まるという。

治安は決していいとは言えず、強盗や誘拐が頻繁に起こる国である。

それでも、命の危険を承知の上で、ナイジェリアへ渡航した。

日本では考えられない状況の中、なぜナイジェリアで長期インターンをしようと思ったのか。

彼女の人生を追いながら、現在の長期インターンを中心に、全4回の長期インターンの経緯を聞いていきたい。

「なるべく他人に会いたくない」子だった

埼玉県に生まれたチネケさん。

ナイジェリア人の父と日本人の母をもつハーフとして育った。

明るい笑顔が印象的で、コミュニケーション能力に長けている彼女だが、幼少期はまるで別人だった。

「小学校低学年のころは、全く自分に自信がもてなかったんです。よく見知らぬ人に、肌の色や髪質を見て『外人』と馬鹿にされていました。」

自分がハーフであるという事実が、自分の中でとてつもなく大きかった。

なるべく日本人に寄せようと、ストレートパーマをかけて過ごしていた。

しかし高学年になったころから、少しずつ自分が変わっていったという。

それは、両親の言葉も影響している。

「ずっと『やる前からできないと言うな』と言われてきたんです。この頃から、色々なことに挑戦するようになって、少しづつ自信がつきました。」

元々、人と話すことが好きだったチネケさんは、あえて学校内で人と関わる努力をした。

積極的に人の前に立とうと、クラスの代表委員や、金管バンドクラブの部長、生徒会を務めた。

すると、だんだんと周りの人からの信頼を得て、自分を好きになり始めるようになった。小さな勇気の積み重ねが成功体験となったのだ。

「いつか学校にハーフの子が入ってきたときに、その子がいじめられないように、自分がハーフ代表として学校で活躍しよう。それを目標に掲げて頑張っていました。」

自信喪失からの脱却法は「長期インターン」だった

埼玉県内で中高時代を過ごしたチネケさんは、大学受験で早稲田大学に合格。

お寿司屋さんや、学習支援教室でアルバイトをしながら、大学生活を楽しんでいた。

しかし大学2年生になった頃、少しずつ自分自身の状況に焦りを感じ始めた。

「人間関係も広がり、優秀な仲間に出会う機会が増えたんです。」

夢や目標を持って学生起業した人や、特技のプログラミングを生かして仕事にしている人を目の当たりにしたのだ。

— 私には特技もないし、自信をもって誇れるものがない。私には何ができるんだろう。

人と比べるのはよくないと分かりつつ、すっかり自信を失ってしまった。

しかし、ここからが彼女のいい所。

すぐに解決策を考え、行動にうつすことにした。

「まず、自分の得意なこと、好きなことはなんだろうと考えたんです。人と関わることが好きで、話すことが得意だったので、これらを活かす手段の1つである『営業』を経験してみようと思いました。」

そこで、すぐに Wantedly(※) で「営業」「長期インターン」の検索をかけた。

※Wantedly……求人者と求職者をマッチングする、ビジネスSNSサイト

【1社目】初めてのインサイドセールス

初めての長期インターン先は、エン・ジャパン株式会社 でのインサイドセールス(非対面営業)。 大学2年生の5月から、年度末まで在籍した。

架電にて法人向けに自社サービスの紹介をし、アポイントを取るまでのファーストステップの業務を担った。

全くの初心者だったが、大手ならではの確立した体制の元、研修を経て実務に取り組んだ。

オンラインでの長期インターン。

しかし、仮想オフィスのツールを使用し、仲間の架電状況などを聞くことができた。

「片方の耳で仲間の架電の様子聞き、もう片方の耳で架電するといった状況でした。自分の会話も聞かれるので、当然はじめは緊張しました。でもとても勉強になったんです。」

仲間の上手な言い回しを真似してみたり、仲間の映像を見て、PCやスマホの効率的な配置を真似してみたり。

仮想オフィスでも、問題なく仲間と切磋琢磨することができ、大きな収穫となった。

【2社目】興味のあったWebライター

大学2年生の12月から年度末までの4か月間、チネケさんは2社目の長期インターンを決意した。

「当時文章を書くのが楽しくて、noteを書くことにはまっていたんです。そこで、ライターの仕事をしてみたいと思い、再度Wantedlyから応募しました。」

選んだのは dely株式会社。レシピ動画サイト「クラシル」などを運営する会社だ。

はじめは、記事に載せるための「日用品の商品選定」をする業務を任されていた。

しかし、どうしても記事を書いてみたかったチネケさんは、上司に直談判。

見事テストライティングに合格し、インターン生として初めてライターの仕事をもらうことができた。

ここでは、読者に読まれやすい記事の書き方や、文章を書く上での決まりごとなど、

専門的なライティングスキルを学ぶことができた。

【3社目】人気のコンサルティングに挑戦

1,2社目の長期インターンを終える時期、3つ目の長期インターン先を探し始めたチネケさん。

当時から人気のあった「コンサルティング」「ウェブマーケティング」に興味を持ち、好奇心で飛び込んだ。

場所は 株式会社CFPコンサルティング 。デジタルマーケティングの総合コンサルティングを提供する会社である。

チネケさんは、大学2年生の3月から3年生の12月まで長期インターンをおこない、広告などに記載される画像や文章の出稿サポートなどを担当。

また、クライアントが訴求したい内容を基に、文章を提案をしたり、CV(※)を見ながら改善点を分析していく作業をおこなった。

コンサルティングの経験を通して、顧客と並走していくことの楽しさ、難しさを学んだ。

※CV(コンバージョン)……ウェブなどの訪問客のうち、何人が目的としている行動をとってくれたかを示す数値。

【4社目】いざ、念願のナイジェリアへ

「父親の故郷であり、自分の半分であるナイジェリアに、これまで一度も行ったことがなかったんです。就職をする前に時間をとって、『自分のルーツを知りに行きたい』と強く思いました。」

ナイジェリアについて知る中で、ビジネスのポテンシャルがあるこの国に、ますます興味が湧いてきたのだ。

アフリカ最大の人口とGDPを誇るナイジェリアだが、新興国ゆえにビジネスの発展にはまだ課題があるという。

今後急成長していくナイジェリアの市場を肌で感じたい。経済面について学んでみたい。

そのような思いで長期インターン先を探し続け、ついに理想とする会社を見つけることができた。

しかし、父親はナイジェリアへ行くことを最後まで強く反対していた。

「強盗などは日常茶飯事で、親戚が誘拐され、父が身代金を払った話まで聞きました。正直、命の危険を感じましたが、それでも決意は揺らぎませんでした。」

「自分なら大丈夫。万全に準備をした上で、リスクを取って挑戦しよう。」

彼女には、自分を信じ、素直な気持ちにしっかりと耳を傾ける強さがあった。

長期インターン先の 株式会社AAIC Japan Nigeria は、新興国に進出する日本企業のコンサルティング、投資を支援する会社である。

ナイジェリア支部では、特にヘルステック(健康+テクノロジー)の分野のスタートアップ(※1)に対して投資をしている。

ナイジェリアは日本に比べ、ヘルス(健康)の分野がかなり遅れているという。

例えば、健康保険の加入率が低いことから、体調不良でも病院に行かず、薬局で済ませる人が多いという国民性がある。

そこでIT技術を使い、数多くの薬局に輸入された薬を、幅広く平等に分配できるようにしていくのも、ヘルステックのひとつである。

ここでのチネケさんの業務内容は、DD(※2)と呼ばれるもの。

日本の投資家が、アフリカのスタートアップに投資をする際に、投資する価値やリスクのある企業かどうかを、客観的立場から調査・分析する仕事である。

実際にスタートアップに訪問し、下見することもあれば、起業家に会って話を聞くこともある。

まさに、国の急成長を目の当たりにしているのだ。

「スタートアップが、医療を含め深刻な社会課題の解決を目指している姿は、本当にかっこいいなと思います。そして、その会社のさらなる発展のためにも、投資の決行に関与する自分の業務が、いかに責任があることかという点で、やりがいを感じます。」

※1 スタートアップ……革新的なアイデアで短期的に成長する企業

※2 DD(デューディリジェンス)……投資などの取引における対象企業などの資産調査活動のこと

自分のユニークさを生かしていきたい

初めて海外と繋がる仕事をしたことで、自分の個性の素晴らしさに気付くことができたチネケさん。

「自分の中に半分ナイジェリアの血が入っていることは、個性であり強みでもある。実際に、現地の方にも受け入れてもらいやすいことを実感しました。心の距離の近さや親しみを感じたんです。」

ハーフである自分のユニークさや経験を生かせるような仕事がしたい。

そしていつかは、ナイジェリアをはじめとした新興国の発展に携わっていけたら嬉しいと語ってくれた。

さいごに

休む間もなく、4社もの長期インターンをこなしてきたチネケさん。

これからキャリアを考える同世代たちへ、メッセージを頂いた。

「気になった職種は、どんどんやってみるといいと思います。こんなことができるのは、学生の特権だから。私たちは当たり前に未熟で、できることも小さい。だからこそ失敗したっていい。沢山学んで経験して、将来社会に貢献して恩送りしていこう。そう考えると、もっとリスクをとって行動しやすくなるのではないでしょうか。行動を通して得た失敗も成功も、すべては必ず自分自身を信じる力(自信)に繋がっていくと思うんです。」

「失敗や成功体験は、すべて自信に繋がっていく」。

4つもインターンを経験した彼女が言うから、より説得力がある。

学生だからこそできる経験を、逃さないでほしい。

「長期インターンは自分を知る手段の1つとして、とても良い経験になるのではないでしょうか。初めての経験に不安は付き物ですよね。それでも、失敗を恐れずに、どんなときでも一番身近な自分自身の味方でいてほしいと思います。

私はこれからも挑戦をし続けていきたいです。磨けば磨くほど輝いていくと、自分を前向きに信じています。」

上手くいかなくて葛藤する時でも、勇気を出したい時でも、いつも「自分の味方」でいること。

これが、人生を切り開くヒントなのかもしれない。